2021年10月30日土曜日

全国鳥類繁殖分布調査報告書“日本の鳥の今を描こう 2016-2021年”の紹介と 越冬期調査への協力のお勧め

「調査にご協力いただいた皆様へ」ということで一冊の報告書が10月29日に郵送されてきました【図1】。中身は、わが国で繁殖している鳥たちのそれぞれの繁殖状況が、1970年代・1990年代・2010年代の3つの日本地図に記されています。例えば、当会が調査・研究しているイソヒヨドリの図版を見れば、かつては“海岸線に固着していた鳥”が、いつごろから内陸部にも進出したのか、そして今はどのような繁殖分布になっているかが一目でわかるようになっています【図2】。

報告書には、同じような図版が種ごとに、278種余掲載されています。全国を対象としたこのような繁殖地図は、世界的に見てもトップクラスのレベルです。

報告書自体は協力者や団体だけに配布される非売品ですが、多くの方が利用できるようにPDF版が公開されているとのことです。詳しくは下記にアクセスください。

https://www.bird-atlas.jp/pub.html

この事業を推進してきたNPO法人・バードリサーチは、この冬も「越冬分布調査」を継続するとのことで、その協力を呼びかけています。繁殖分布とともに、越冬期の状況も図で示せるようになれば、さらにさまざまな形での活用が広がると思います。  また、これらの調査が“ボランティア”で行われていることも意義が高いと思います。“野鳥の識別ができる”ということは一つの特技です。一人ひとりの観察や調査は小さいものですが、一つにまとまれば、日本の自然環境の「今」を記録することができます。ぜひこの活動にも一助をお願いします。(川内博)

https://www.bird-atlas.jp/winter.html

                              

(図1)

(図2)




2021年10月12日火曜日

NHK「ダーウィンが来た」でイソヒヨドリを放送 その感想

前回のブログでも紹介しましたが、10月10日にNHK総合チャンネルで放送された自然番組「ダーウィンが来た」では「街に大進出!青い鳥の謎」と題して、イソヒヨドリが取り上げられました。

イソヒヨドリは、今まさに現在進行形で従来の生息地の海岸だけでなく、内陸の市街地でも姿を見るようになっている鳥です。その詳しい生態をテレビの自然番組で取り上げられるのは、おそらく初めてのこと。どんな内容になっているのか、放送が始まるまでワクワクして待ちました。

舞台は東京八王子。内陸イソヒヨドリがかなり早い段階で確認された場所です。イソヒヨドリの取材ならば、やはりここを選ぶでしょうね。

それにしても、八王子には本当にたくさんのイソヒヨドリがいるのでビックリしました。当然、そのことは知っていたのですが、それにしてもここ数年の増加ぶりがここまでとは思いませんでした。営巣箇所が50もあるとは。これは八王子・日野カワセミの会の調査の賜です。

映像は、繁殖の様子がよくわかり興味深い物でした。とくに巣立ちビナがハシブトガラスに襲われるシーンは、都市鳥の宿命をよく表しており、残酷なシーンですがカットしなかったのは拍手を送りたいです。また、イソヒヨドリはいるのがわかっても、なかなか巣が見つからない鳥なので、撮影はそうとう苦労されたと思います。さらにこのコロナ禍ですからなおさらでしょう。また、都市での鳥の撮影は、取材許可を取るのが本当に大変なんです。私は元ディレクターで、過去にいくつも都市の鳥を取材し番組を制作した経験があるので、その苦労は他人事ではありません。とくに近年は厳しさを増していると言いますから。

番組の核心部である、「何故、海から街へ進出したのか」その答えの一つとして、崖はイソヒヨドリの重要なソングポストであり、高いビルはそれと同じ機能を持っているという着眼点は納得いくものでした。じつは私も同じ事を感じていて、イソヒヨドリは縄張りを強く守る習性があり、見晴らしの良いソングポストはライバルの侵入を阻止するのには欠かせないと思っていたからです。

しかし、その他の説明では、納得いかない内容がいくつかありました。

一つは、イソヒヨドリの囀りは街の騒音の中でもよく通り、遠くまで聞こえやすい音域の特徴があること。それはもともとの繁殖地が海岸で波音がうるさい環境で育まれてきたものという説明がありました。しかし、イソヒヨドリはユーラシア大陸南部に広く分布する鳥で、海岸で繁殖しているのは日本と韓国だけ。ヨーロッパなどでは波音がしない山の中でも繁殖しており、そこのイソヒヨドリも同じような声で囀ることがわかっています。したがって、そもそもそのような音域の囀り持った鳥であって、波音がという推論は当たらないと思うのです。

世界のイソヒヨドリの声はこちらで聞くことができます。 

もう一つは、内陸進出をはじめたきっかけが、海岸部の開発でそれによって従来の生息地である崖がなくなったからという説。しかし、海岸部に行ってみればわかりますが、今でも普通にイソヒヨドリは生息しており、少なくなったというデータも私が知る限りではありません。また、崖がなくなったとしても人工物が代用されるため、イソヒヨドリがいなくなるとは到底思えないのです。

都市鳥の進出理由ではよくある説ですが、私の考えではこのような消極的な理由の鳥は見当たらず、都市進出はもっと積極的なメリットを見いだして行われているのではないかと思うのです。

今、まさにそのことを私を含めて当会は研究を進めているのですが、まだ、そのはっきりとした答えはわかっていません。でも、おぼろげながらそのストーリーは浮かびつつある実感は持っていますので、それを証明するために今後も調査を続けていこうと思っています。(柴田佳秀)