2021年5月16日日曜日

アブラコウモリが明るいうちに飛ぶと

  コウモリは夜行性だが、希に昼間飛ぶこともあります。人里に生息しているアブラコウモリの場合は、特に人目につきます。われわれも4月に一回、8月に一回、正午くらいに飛ぶ姿を目にしています。理由は想像の域を出ないのですが、アブラコウモリは人家などの隙間をねぐらにするので、攪乱されたのか、真夏なら暑すぎたのか、春先なら冬眠明けで日周リズムが狂ったのかもしれません。

 また、季節とはかかわりがなく、夕方のねぐらからの出巣が、日によってはまだ充分明るい時間帯のこともあり、時には日没より1時間以上前に出巣することがあります。普段われわれがアブラコウモリを観察している住宅地と農耕地の間を流れる埼玉県川越市の川辺には、まだ明るい中を十頭以上のアブラコウモリが飛び交っていることがあります。

 コウモリが夜行性であるいちばんの理由として、イギリスのスピークマンは、明るいうちに飛ぶと鳥に捕食されることを挙げています。そのほか、体温が高くなりすぎ、鳥との餌を巡る競争、鳥によるモビングなども挙げています。

 われわれのフィールドで、昨年ツミが営巣して抱卵していましたが、結局ヒナは見られず繁殖は失敗しました。このツミが、夕方まだ明るいうちにアブラコウモリが出てくると次々と捕えていました。今年も4月にツミのつがいがやってきて、一時期アブラコウモリを捕食していましたが、昨年の古巣は既にハシボソガラスに乗っ取られ、新たに作った巣は、オナガが騒いでいたせいか放棄してしまいました。

 同じ場所で、ハヤブサ、チョウゲンボウがアブラコウモリを捕獲するのも見かけます。ハシボソガラスに捕らえられたのを見たことも一度あります。 アブラコウモリは小さく、飛ぶのも遅いので、小柄なツミにとって格好の標的なのでしょう。ツミは、比較的明るいうちでないと捕食しませんが、ハヤブサやチョウゲンボウは、日没を過ぎてかなり薄暗くなってもアブラコウモリを捕食しています。

 ツミは近年都会に進出していますが、アブラコウモリをどの程度捕食しているのか、またツミ以外でもアブラコウモリが明るいうちに飛んでいるときの捕食例などあったらお聞かせ願えればと思います。

【ホームページ・ブログの紹介】オオコウモリを中心にコウモリ全般の話題を書いているわれわれのブログとホームページ。最近はコロナのため近所のアブラコウモリの撮影が多いです。

(大沢啓子 大沢夕志)

https://fruitbat.at.webry.info/

http://www2r.biglobe.ne.jp/~fruitbat/

http://fruitbat.jp/


写真1:昨年ツミのいた木立の下で集めたアブラコウモリの残骸 
ツミの餌の受け渡し場所の下で拾ったものの一部

写真2:チョウゲンボウに襲われるアブラコウモリ
チョウゲンボウに捕獲された瞬間



写真3:明るい時間帯に飛ぶアブラコウモリ
2021年4月16日17:10に住宅街の横の河原を飛んでいた。
当日の日没は18時16分





2021年5月7日金曜日

都市環境下での都市鳥たちの繁殖・カワセミの営巣地2例

  かつては“幻の”ということばがついていたカワセミが、全国的に興隆している昨今です。その一因に人為的な助けが大きくなっています。とくに都市環境ではその度合いが増しています。

 1980年代以降の東京都内でのカワセミの営巣地を見ていると、自然の崖地での営巣は皆無に近く、ほとんどは「人工の崖地」でとなっています。人工崖地のつくりは時代とともに変化が見られ、当初は水辺に土を盛り、壁面を削り垂直な土壁をつくり、カワセミが自力で横穴を掘って巣穴をつくるタイプが主流でした。しかし、その後、河川改修などの際に、擁壁に穴を開けたコンクリートブロックを用いて、営巣ができるというような形が登場し、全国的に広まりました。その後さらに“進化”し、擁壁の穴の奥の育児室となる部分に、最適な土を入れた箱型の「セット巣箱型」が流行っているようです。

  「人工崖地」は、設置当初の利用度合いは高いものの、数年たつと放棄されることが多いのが現状です。理由はさまざまですが、結論的には“巣立ち率が低い”からだと考えられます。営巣しても次代が育たなければ繁殖の意味がありません。

  今春、東京下町の2つの事例を見てきました。1つは古典的な土盛りタイプで、10年前くらいに造成され、数年間は連続して巣立ちが見られましたが、ヘビに襲われ放棄。昨年穴を塞ぎ、新しく壁面を切り出したところで復活し、今年は元気に多数の穴を掘ったりして【写真1】元気に繁殖活動に励んでいましたが、残念なことに、今春もヘビに襲われ全滅したとのことです。

 もう1つは、川岸沿いの人工島に造られたカワセミ用の人工崖。こちらは崖の壁面が鉄板になっていて、ヘビ対策はできているようです。そのためか、巣穴のひとつには、多分無事に巣立ったと思われる“証拠”が残っていました。【写真2】

 東京のカワセミは、東京湾から50㎞も離れた奥多摩近くまで行かないと、その姿は見られないという状況に追い込まれましたが、近年は東京湾の間際まで営巣が見られる状況になっています。今後もその実態を追っていきたいと思っています。(川内 博)


【写真1】土盛りタイプの人工崖地



【写真2】鉄板製の人工壁面