2025年8月9日土曜日

親水型調整池でバンが繁殖

東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ鉄道のつくばエクスプレス。そのほぼ中間にある柏の葉キャンパス駅周辺は、タワーマンションや大型ショッピングセンターが立ち並ぶ新しい街です。街の中心には、水辺を生かした調整池が整備され、「柏の葉アクアテラス」の愛称で親しまれています。

このアクアテラスは、集中豪雨による急激な雨水流出を抑えるという防災機能が第一の役割ですが、同時に、人々が水辺に親しめる憩いの場としての顔も持っています。岸辺にはヨシやヤナギが茂り、水面にはヒシが浮かぶなど、都市の中では貴重な自然環境が残されており、多様な生きものたちのすみかにもなっています。

私も、この良好な環境に魅かれて、定期的に生物観察を行ってきました。そして今年、2024年7月11日、ついにこの池でバンの繁殖を確認しました。

バンはかつては身近な鳥でしたが、近年は全国的に激減。全国鳥類繁殖分布調査によると、1990年代と2010年代を比較した増減率は-51.7%で、日本で繁殖する鳥の中ではワースト7位の減少幅です。そのため、狩猟対象からも外されました。

そんなバンが、柏の葉アクアテラスでは一年を通して普通に見られ、さらに今年は5羽のヒナを連れたペアと、2羽のヒナを連れたペア、計2組の繁殖を確認しました。この場所が、都市の中に残された貴重な繁殖地であることがはっきりと分かったのです。

この環境が守られる限り、バンはきっと今後もここで命をつないでいくでしょう。人の利用も多い場所だけに、管理者と連携しながら、この大切な繁殖地を未来へ守っていきたいと思います。(柴田佳秀)

確認したバンの親子


2025年7月22日火曜日

イソヒヨドリの繁殖巣発見・茨城県取手市

茨城県取手市内の商業施設(私は週1~2回 程度利用)でイソヒヨドリの巣を発見しました。同店は市内有数の大型店舗で、多数の人が常時往来しています。今年の6 月20日朝、店建物に近づいたところ、あまり聞き慣れないヒナの餌ねだり声(細く短い金属製の声)が盛んにしています。屋根付近を見回していると、突然背後から激しい警戒の鳴き声「たたたたたた」がし始めました。

そちらを見ると3~4m先の看板の上にイソヒヨドリのメスが大きな毛虫をくわえて鳴いています。少し遠ざかって見ていると、建物屋根の角【写真】に飛び込み、少しして何もくわえずに飛び出しました。

 その後、その屋根角の真下に行ってよく見ると、少しはみ出した巣材も見えます(ただしスズメの巣の可能性もあり、正確な位置は不明)。約30分後に買い物を終えてその場所に近づくとメスは警戒鳴きしていた所に止まっています。注視されていることに気がつかなければ、人が側を通っていても反応しませんでした.

この場所でのイソヒヨドリの飛来状況については、昨年5月7日に店舗北側の駐車場近辺で、初めてオスに気づきました。そのシーズン中、雌雄各1個体がいて、虫をくわえているのを見ていたので、繁殖したと思われます。そして、恐らく巣は空き家などがある北側の崖付近のどこかだろうと思っていました。

今年は3月29日に初目撃し、特徴的なオスの求愛コールを聞き、またメスの「疑似餌ねだり」行動も観察しています。昨年も今年同様に屋根裏を使ったかどうかは不明ですが、巣の下は買い物時の通り道で、普段から鳥の姿には気をつけていて、気がつかなかったので、違う可能性のほうが高いと考えています。

  なお、この建物の屋根(地上から5~6m)には構造上隙間が多数あって、スズメ、ムクドリ、 キジバトが巣に利用しています。〔福田道雄〕



 

2025年7月5日土曜日

『都市鳥ニュース』№38を発行しました・“街のなかの猛禽類”に興味ある方に配信します

野生生物があまり好まない環境とされる「都市」。しかし、いま街の中には複数の猛禽類が昼夜にわたって飛び回っています。「都市」は人間が自分たちの住みやすい環境として造った場所で、野生動物にとっては不適な環境と考えられていましたが、いま世界的に“街の鳥”〔都市鳥・としちょう〕の生態が注目されています。

かつては「種の保存法」で国内希少野生生物に指定されていたオオタカが、都市環境の代表的な「東京23区」の、その半分以上の地域で「繁殖」しています。また、日本最小のタカで、戦前は国内で数例しか繁殖記録が残されていないツミ【写真上・マンションのベランダから巣を見守る雄】は、首都圏各地の小公園や校庭、街路樹などの緑で子育てをしています。彼らの共通した獲物は「鳥類」。キジバトやドバト、ムクドリ、スズメ、シジュウカラなどを餌として、毎年“都会派猛禽”が誕生しています。さらに、ハヤブサのなかまのチョウゲンボウ【写真下・橋げたで育った若鳥】やフクロウといった猛禽も、鳥類を主食として各地の街で増えています。

前号と今号で、東京やその近郊だけでなく、愛知県や那覇などの状況を紹介しています。その目次は当会HP MENUの「都市鳥ニュース」をご覧ください。興味をお持ちの方は希望の号をリクエストください。配信します。


ツミ マンションのベランダから巣を見守る雄

橋げたで育ったチョウゲンボウの若鳥


2025年6月9日月曜日

自然教育園でトークイベント『オオタカの子育て~8年間の変遷を振り返る』

東京・港区の国立科学博物館附属自然教育園(通称・自然教育園)は、かつては「カワセミの子育てライブ」が有名でしたが、このところは「オオタカの子育てライブ」が園内で放映されています。この地では、皇居や赤坂御用地、明治神宮に続いて、2017(平成29)年、園路の真上で営巣を始めて以来、昨年(2024年)まで、園内で営巣し、19羽の若鳥が巣立っていきました。

今年は原因不明で営巣をしませんでしたが、その間8年間の子育てのようすは、ビデオカメラで記録され、来園の皆さんが大型のモニターで観ることができるようになっています。

ビデオの性能はだんだん高機能となり、夜間をふくめてそのようすが終日記録され、真夜中にアオダイショウやハクビシンの襲来をうけて、親鳥が戦うシーンなども見られます。このたび、自然教育園でのオオタカの子育ての全貌を知る遠藤拓洋さんのトークイベントが、いま開催されている企画展『自然教育園のオオタカ~都会に生きる空のハンター』の一環として開かれることになりました。【ポスター参照】

日時は6月28日(土)10時~11時30分。会場の定員は30名ですが、オンラインで100名(小学4年生以上が対象)が無料で参加できます。ただし、6月21日までにWebで申し込む必要があります。受付けはすでに始まっていますので興味ある方はお急ぎください。なお、入園の場合は一般320円、高校生以下・65歳以上は無料です。





2025年5月18日日曜日

日本橋小伝馬町エリアでツバメの調査

前回のブログで、東京駅を中心とした3km四方におけるツバメの繁殖調査を始めると紹介しました。その調査の一環で、5月1日に私が担当するエリアである日本橋小伝馬町や人形町をまわってきました。

このエリアは5年前にも私が担当したのですが、道路が碁盤の目のようになっていて、すべてを徒歩で回るのはなかなか大変でした。そこで今回はレンタサイクルを利用。現在、都心部にはレンタサイクルがあちこちにあり、アプリで簡単に借りることができます。これで調査エリアをくまなく回ることが可能になりました。

ちなみに、調査エリアは、ほぼビル街で大小の雑居ビルがびっしりと埋め尽くしています。そのところどころに木々が植えられている小規模な公園があります。

調査担当エリア

さて、エリアをくまなく回った結果。巣があったのはわずか一カ所のみ。ここは5年前にも営巣していて、どうやら毎年営巣を続けていた感じでした。ちょうど、巣を作っている最中で、気になるのはその巣材となる土をどこから持ってくるのか。少し追跡してみましたが、すぐに見失ってしまいわかりませんでした。また、近くに小規模な公園があり、そこにある樹木の上を飛んで食物を取っているように見えました。巣材をとる場所と採食する場所あることでこの場所での営巣が可能なのかもしれません。そして、一番大事なのが営巣を人が許していることです。管理人さんと少しお話することができ、飛来した時期をきちんとメモにとっていらっしゃったので、ここのツバメは愛されているんだなと感じました。

巣から出るツバメのメス

ツバメ以外の鳥もこの調査では気をつけているようにしています。最近、数が減ったと話題のスズメは、街中にある小規模な公園があると必ず見かけました。どうやらスズメにとって、公園が採食環境で重要な場所であることが伺えました。ここで食べものをとり、電柱の部材で営巣している。そんな姿がありました。

このような緑がある公園にはスズメがいました

その他、イソヒヨドリなども注意をしましたが、他に見たのはハクセキレイ、ハシブトガラス、ヒヨドリ、ドバト。また、日本橋川にはウミネコとイソシギがいたのが印象的でした。調査からそろそろひと月が過ぎようとしていますので、また、出かけて追加の調査を行いたいと思っています。(柴田佳秀)

日本橋川にいたウミネコ





2025年4月24日木曜日

第9回・東京駅を中心としたツバメの繁殖調査を始めます

今から40年前の1985(昭和60)年から5年ごとに実施している「東京駅を中心とした3㎞四方におけるツバメの繁殖状況」調査。前回2020年の第8回はコロナ禍で、全域の調査は中止し、有志による状況調査を行いました〔『URBAN BIRDS』Vol.39 2022年〕。今回は、従来通り会員による共同調査を4月末~7月中旬にかけて行います。 

第1回の調査では44か所という予想以上の営巣地を発見しましたが、2回目の1990年には半分以下になり、その後は回を追うごとに右肩下がりでしたが、7回目の2015年には5か所増の19か所での営巣を確認しました〔『URBAN BIRDS』Vol.32 2015年〕。  

全国各地でツバメの繁殖調査は行われていますが、いずれも同じように減少傾向にあるようです。その主因は餌である「空中の虫たちの減少」と彼らの好む「営巣場所の不足」ですが、それとともに人がその存在に“無関心”になったことも挙げられます。

“ツバメは人好き”とよくいわれますが、これは人の近くだと天敵のカラスやスズメが近づかないという彼らなりの“戦略”と考えられますが、目も向けてくれない状況だと事情が違います。さらに、建物の構造や材質が巣を造りにくくなったり、新築の壁に泥と枯草で作る巣を嫌う傾向もあったり、ピンチが続いています。  

写真上は第1回の調査時に見つけた「ブリキの巣」です。もちろんツバメが作ったものではありません?  軒先に造った巣が壊れて、その家の住人が身近にあったブリキ缶で巣の代用にしたものです。写真下は、老舗のデパート松屋銀座・東館につけられた軽量の人工巣です。今年も“愛されるツバメ”がたくさん戻ってくることを願っています。〔都市鳥研究会・事務局〕




2025年3月22日土曜日

エナガの営巣条件とは

エナガの繁殖シーズンになりました。

彼らは、早春の2月中頃から苔や地衣類をクモの糸を絡めて直径20㎝ほどの丸い袋状の巣を作ります。そして、中には大量の鳥の羽毛が入っています。ある調査では2,900枚も入っていたそうですから驚いてしまいます。

巣を作るエナガ

ちなみに羽毛の枚数は寒い時期に作られた巣ほど多く、暖かくなると減る傾向があるそうです。そういったことから考えると、巣の中の羽毛は寒さ対策である可能性が示唆されています。

ところで、この大量の羽毛をエナガはどこから調達するのでしょうか。よく言われるのは、オオタカなどが獲物を捕らえ、食べるために羽毛を抜いたあとから持ってくるというものです。確かにオオタカがいると、地面にドバトなどの羽毛が大量に落ちていることがあります。そこからどんどん持ってくるのでしょう。巣の中に同じ種の羽毛が大量にあることから、猛禽類の存在がエナガの営巣には重要ではなないかとする論文があります。

今、エナガは東京都心部の緑が多い公園でも繁殖をしています。かつてはエナガの存在すらほとんど感じなかったのですが、現在は繁殖するようにまでなっているのです。そして、その繁殖開始の背景には、オオタカの存在が指摘されています。オオタカが棲むようになったことで羽毛が手に入り、エナガも巣造りが可能になったのではないかという仮説です。

ただ、私が観察している場所ではエナガが営巣していますが、オオタカはいません。そこでエナガを追跡して、羽毛を調達している現場を突き止めることにしました。すると彼らは必ず池の畔へ向かっていることがわかりました。岸辺にはカモ類が羽づくろいして抜け落ちた羽毛がたくさん落ちていて、そこから羽毛を調達していたのです。

カモの羽毛を運ぶエナガ

このことから、エナガの繁殖には必ずしもオオタカなどの猛禽類がいる必要はなく、カモがいる池があれば営巣可能であるように思えるのです。これからはもっと詳細にデータをとっていきたいと思っています。(柴田佳秀)







2025年2月21日金曜日

「科博の「鳥・特別展」3日後に終了

開催期間はまだたっぷりあると思っているうちに、2月24日の終了日まであと1週間という2月18日、東京・上野の国立科学博物館で開催されている「特別展・鳥~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統」をみにいきました。

まず驚いたことは、チケットを買うのに10分並んだこと。会場内もごった返すほどの人の波。客層は老若男女、小さな子どもも混じっていました。みなさん熱心に展示されている“鳥の群れ”を見ていました。会場内の係員に“いつもこんなに人がいるの?”と聞いたところ、ここのところとのこと。皆さん私と同じで、“まだ時間的な余裕がある!”と後回しにしていたようです。

キャッチフレーズは「新しい鳥類の系統」ということで、会場いっぱいに新系統樹にそって本剥製が展示されていていました。羽の色や姿かたちのさまざまを目のあたりにでき、その多様性をあらためて知ることができました。

そんな中で、「オガサワラカワラヒワ」が仮剥製のまま、何の説明もなく置かれていました。通りすがりの年配のご夫婦が“なんであの鳥だけがよこたわっている?”と不思議がっていました。会場内、動画以外は撮影OKでしたので、その寝姿をパチリ【写真・上】。

初めて見るもののなかで、天井から吊り下げられている「ペラゴルニス・サンデルシ」の復元モデルは一見の価値あり。飛ぶ鳥としては史上最大で、嘴にトゲ状の突起がある「骨質歯鳥類」とのこと。迫力ある姿に見入りました。【写真・下】

約2時間、全展示物を見てまわりましたが、そのボリュームは一見の価値あり! 混雑の中、音声ガイド(有料)は役立ちました。2月24日(月・日)が最終日。まだの方は混雑覚悟でお出かけください。

オガサワラカワラヒワ

ペラゴルニス・サンデルシ


2025年1月19日日曜日

都市の変化に翻弄される都会の鳥たち

私の都市鳥観察のメインフィールドの一つは千葉県柏市にあるJR柏駅周辺です。たいてい毎日、買い物で利用するのですが、そのついでに鳥を見ています。
駅近くにはイトーヨーカドーがあって、その壁面にある排気口でチョウゲンボウが繁殖しており、毎年、ヒナが巣立つのを楽しみにしていました。

イトーヨーカドー柏店の排気口にいるチョウゲンボウのヒナ

ところが昨年10月、このイトーヨーカドーが閉店してしまい、築50年以上のこのビルが今後どうなるのかわかっていません。おそらく取り壊すことになると思いますが、そうなるとこのチョウゲンボウの動向が気になります。新しい営巣場所を見つけて棲み続けるのか、それとも姿を消してしまうのか。

また、駅に隣接するデパート「そごう柏店」には、冬期を中心にハヤブサがとまっていることがあり、それを観察するのも楽しみでした。

展望レストランの梁にとまるハヤブサ

このデパートには特徴的な展望レストランがあり、その下がハヤブサのお気に入りとまりばで、ハヤブサ特有の下にたれる糞がたくさん建物のひさしについていることから、そうとう頻繁に利用していることがうかがえます。

青いひさしには無数の糞が

また、2022年の春にはオスとメスのペアが滞在していたので、もしかしたら繁殖?と期待したのですが、確認には至りませんでした。
そのそごうも2016年に経営不振で閉店。2024年まで取り壊されずに残っていたのですが、現在は解体工事の進められています。その結果、現在、ハヤブサの姿はありません。

チョウゲンボウやハヤブサは、都市環境に新たな生息地を見いだし、アーバンライフをするようになりました。しかし、都市は人の都合で変化するものでもあります。彼らはこれからどうするのかその動向を見つめていきたいと思っています。(柴田佳秀)