2026年7月29日水曜日

新刊紹介・2 『鳥と人と―イギリスから世界へ―』ハーバート・アクセル 蓮尾純子訳 文一総合出版刊

故松田道生さんの著書『江戸のバードウォッチング』〔あすなろ書房1995年刊〕に、一面に広がる田んぼの中を歩いて、丘の上の小学校に通っていた故郷の夢をよく見ると書いてあった。高島平の団地造成のために田んぼの耕作が中止された後に、広大な平地湿地が出現し、コアジサシやシギやチドリなどがやってきた、という。2024年12月1日に上野精養軒で行われた松田道生さんを偲ぶ会で鳥仲間があつまったことから、すでに電子図書になっていた蓮尾純子(すみこ)さん翻訳の「鳥と人と」の書籍化が進行した。


アクセルさんは、かなり早くに『Minsmere: Portrait of a Bird Reserve1977』を出版していた。黒沢令子さんは、蓮尾嘉彪・純子夫妻にそれを翻訳することを強く勧められ、4年近くもかかって『よみがえった野鳥の楽園―英国ミンズミア物語』〔平凡社1995年発行〕の出版に漕ぎつけた。それは、1995年頃の、日本各地の鳥類保護区作りをしていた人々にとっての光明になったのではないかと思う。

 1970年以前から、旧江戸川と江戸川放水路の間の広大な干潟では、日本野鳥の会東京支部の探鳥会が行われていた。昔からの漁業と沢山の鳥が織りなす干潟をこよなく愛していた人々の中から3人の学生(蓮尾純子さん・鈴木裕子さん・木藤楡里さん)が開発で干潟が消えていくのはおかしいと声を上げた。大人も協力して「新浜を守る会」が作られた。この問題をメディアは「鳥か人か」の対立構図で取り上げ、「鳥も人も」共生という視点を蔑ろにした。

『行徳野鳥観察舎10周年記念すずがも通信特集号 よみがえれ新浜』〔行徳野鳥観察舎友の会 1986年刊〕に、アクセルさんから、東南アジアに広がる湿地保護の文がよせられていた。「3年前の湿地にはシギ・チドリ・カモ・カモメなどが群れを成していました。そんな大切な保護区が、鳥が渡りの途中に翼を休めたり繁殖したりするのに適した環境を失い、観察舎を訪れる多くの人々のための教育の場としての価値も失っていくというのは誠に不幸なことです。観察舎の建物・設備は世界でもかなり立派なものだというのに」。アクセルさんは、香港で、彼が作ったWWF(世界野生動物基金)のマイポ湿地保護区と教育センター開発の実施の手助けをしているところだった。

1975年に新浜鴨場(約27ha)を含めた行徳近郊緑地特別保全地区(約83ha)ができ、鴨場を除いた残りの鳥獣保護区(約56ha)の一角にプレハブ2階建ての野鳥観察舎ができた。住み込みの嘱託として運営にあたった蓮尾夫妻は、著書の『新浜だより 行徳野鳥観察舎日記より』〔蓮尾嘉彪・純子著 明光企画 1984年刊〕の中のはじめで、「私たちは、この保護区の中に、かつての「新浜」のいくぶんかを復元したいと願っている。そして、この保護区で、鳥や自然を愛する人々をいくらかでも増やしたいと願っている。保護区を訪れる人々が、かつての私たちのように、鳥や自然のたたずまいの中から、そして保護区のありようの中から、何かを得てくれることを願っている。」 1978年の章では、「いま、夢中で読んでいるミンズメア鳥類保護区の管理者の著書がある。中でも“スクレイプ”とよばれる地域の造成は興味深い」と書いていた。

アクセルさんの自伝『鳥と人と』を読んで、狩猟・牧畜・畑作が盛んで産業革命や世界中に植民地を作った歴史を持つイギリスでは、地域の組織や人々が納得しながら鳥類保護を進めることを大事にしているように見える。第二次世界大戦で従軍した時は、各戦地で珍しい鳥に出会えるのが楽しみだった(高野伸二さんが生前、ロシアに抑留されたときにノガンが見られて嬉しかったと話してくれたのを思い出す)。戦後、ロンドンの大気汚染がひどくて体を壊し転職したアクセルさんは、故郷の鳥の思い出いっぱいのダンジネスでRSPBの鳥類保護区の管理人をした。翻訳者の純子さんにも初めて鳥類保護区管理の仕事をしたという共通の思いがあるのか、アクセルさんが大好き。海沿いの辺鄙なところにあるダンジネス保護区・ミンズメア保護区で保護区管理人として取り組んだ所には、原子力発電所ができたが、保護と開発の両者は話し合い共存した。

東京湾に広い干潟はまだ戻っていないが、いまや日本の各地で観察会という広い視野から生き物を知り、地域の自然を見つめる人々が増えている。「NPO行徳自然ほごくらぶ」ではアクセルさんが示したように次の世代を育てる活動が今も続いている。本の後半は、他国の自然保護区域のアドバイザーとしての活動が書かれている。気難しい本というよりユーモア満載の内容で、組織の名前・人の名前・地名・鳥の名前の多さにめげず読み進んで欲しい。読みたいところから気楽に読むのがおすすめ。


この本には、知らない鳥がたくさん出てくるので、素人の遊び心で川内桂子・絵、蓮尾純子編集(さすが、市民運動のエキスパートの印刷技術)のリーフレット〔PDF版〕を作りましたので、無料でお贈りします。希望者には下記のメール〔※〕にご連絡ください。〔川内桂子〕

※ kawachi_kei*yahoo.co.jp(発信の際に*を@にしてください)






2026年7月16日木曜日

新刊紹介 『鳥たちはなぜ都会を選んだのか』文・柴田佳秀 イラスト・安斉 俊 〔山と渓谷社〕

 月刊誌『BIRDER』で2018年~2025年まで連載された「鳥の都会暮らし(アーバンライフ)はじめました」をベースとして、このたび、都市鳥ウォッチング図鑑『鳥たちはなぜ都会を選んだのか』という単行本が発行されました。“都会で生きる野鳥たちの栄枯盛衰。あなたはその物語の目撃者となる” 表紙のカバーにそんなフレーズが記されています。

40年前、「おもに東京の市街地を対象にした鳥の研究」として都市鳥研究会が誕生しました。当時は“カラスとスズメとハトしかいない街で鳥の何を研究するのか!?”とささやかれたものでしたが、そのころから街の鳥のようすがかわってきています。本書をめくると当時は予想もしなかった鳥たちが次々と登場しています。そんな街の鳥たちの生態が、カラーのイラストとともに紹介されています。

ページを開く前に、その本の表紙カバーを見てみましょう【図】。描かれている鳥は、ビル街なかで元気に飛ぶハシブトガラスと減少が続くツバメ。その周りに、最近すっかり “野鳥化?” しているドバトとそれを襲うハヤブサの姿。緑が少ないといわれている街なかを飛ぶ森林性のシジュウカラとエナガ、地面には餌をついばむ元祖都市鳥のスズメとその仲間入りしたハクセキレイ。そしてビルの屋上では新参者のイソヒヨドリが美しい声で歌っています。バードウオッチング初心者の方は、本書の目次からこれらの鳥のページを開いてみてください。それぞれに興味深い“物語”があり、カラーのイラストでその鳥の街なかで棲む生態の一部を知ることができるでしょう。

例えば、裏表紙にも描かれている水鳥のカルガモのページを開くと「日本一のオフィス街はカルガモの楽園だった」というタイトルとともに、1990年代前後にマスコミを巻きこん“かるがもフィーバー”の話が紹介されています。また、かつては日本でその繁殖が数例しか知られていなかった小型猛禽のツミが、なぜ街なかで営巣するようになったか、さらに東京では都心の都市公園でも繁殖しているこの鳥が、西日本では街なかで見られないという“謎”などが取り上げられています。街に棲むようになった「アーバン・バーズ」は人間優先の街のなかでどんな工夫をして生きているのか、本書を読むと、身近な鳥たちを見る目が少し変わってくると思います。〔川内 博〕