2016年11月10日木曜日

千葉県でのイソヒヨドリの内陸進出・中間報告

イソヒヨドリは名前のとおり、日本では海岸でよく見られる鳥ですが、アフリカからユーラシア大陸などでは山岳地帯の岩場などで生活しています。海岸でしか繁殖していなかった日本の方が特殊だったのではないでしょうか。近年関西を中心に内陸部の繁殖が増加し、関東にも内陸部の繁殖や目撃が増加してきていますが、千葉県でのようすをご紹介します。
2011年改訂の千葉県レッドデータブックでは、イソヒヨドリは要保護生物(絶滅危惧Ⅱ類に相当)になっていて、比較的個体数が少ない鳥類ですが、内陸への分布拡大を通じて個体数も増加傾向にあると思われます。
イソヒヨドリがどのように関東圏で生活域を拡大していくのかを追跡するため、千葉県での記録を文献および鳥仲間を通じて集めています。県内での内陸進出は、記録を辿ると古くは1970年台にいすみ市と勝浦市での記録があります。このうち勝浦市のものは、勝浦ダムのものです。
201610月までの集計では、内陸部での目撃例は佐倉市で9例、柏市で7例、流山市・市川市で4例、印西市・我孫子市で3例、いすみ市・鴨川市・君津市・勝浦市・松戸市でそれぞれ1例ずつあり、県内のほぼ全域で見られています。また、変わったところでは、鴨川市の東京大学演習林天津事務所付近では、ほぼ毎年のように見られています。この場所は房総半島の森林の中の管理事務所で、海岸でイソヒヨドリを見慣れた者にとって信じ難い場所です。ビル街のイソヒヨドリと同じく、イソヒヨドリは海岸の鳥というイメージはこれから捨てたほうがよさそうです。

県内の内陸部での記録が増加し始めたのは2013年ごろからで、2015年には我孫子駅前で巣立ち雛が見られていますので、このころから内陸部での繁殖がはじまったと考えられます。文献および観察記録の詳細な分析がまだ終わっていないので、引き続き集めています。情報をHP「掲示板」に書き込みお願いします。(越川重治)

船橋市の住宅街にあらわれたイソヒヨドリ 2015.5.14

2016年10月22日土曜日

「我々の次の世代」ブリティッシュバーズ誌の巻頭を読んで

最近、鳥や自然関係の会でよく話題になるのは、若い人が従来の組織に入ってこないこと。このままでいくと会の存続が危ぶまれるという心配です。
イギリスの野鳥雑誌『ブリティッシュバーズ』の今年の7月号〔写真〕の巻頭「BB eye」でステファン・モス氏が「我々の次の世代(The Next Generation)」という文を載せていました。その内容の大意を紹介します。

イギリスでも長い間、野鳥観察の会に若い人が来るのは珍しく、どこに行ってしまったのか不思議だったそうです。ところが今、この事態は変わってきているようです。土曜日の午後のバードフェァの場で、若者たちが野外でビールを飲みながら、年配の野鳥観察者や自然保護活動家たちと談笑しているとのこと。
若者の興味を引き、頼りになる「若い野鳥観察者の会(NGB)」と「自然観察(A FoN)」の2つの団体に入る若者が多く、彼らはソーシャルメディア(SNS)を駆使してブログを書き、写真や動画を配信し、一瞬にしてメッセージを伝えているとのこと。1960年代の若者が、20世紀末に抱いた虚無感は去って、次世代は“やってやろう”の意欲で一杯のようです。

イギリスの子供たちが、日常的にアウトドア生活と離れ育ち自然を知らないことが社会のあらゆる面に負の影響としておよんでいます。しかし、私は今、若者に信頼を寄せています。彼らは自発的かつ独創性によって、自然とのかかわりを構築しています。若者の姿は社会変化の象徴です。私達経験者がするべきことは彼らの話に耳を傾けることだと訴えています。
モス氏は最近フィンドレイ・ワイルド君が開設している「13歳のワイルド」というブログに「13歳ころ(1973年)の野外経験」を書いたそうです。その時に気づかされたのは、10代~20代を通して、野鳥観察の友達がたった一人しかいないことでした。当時は、今と違って野鳥観察と自然保護の発展にかかわる機会は皆無だったとのことです。
いまは、バーディングが著名人の中でも普通になってきているとのこと。また、学校にバーダーがいない若者もフェイスブックで近隣の場所で6人も見つけたとのこと。このように若者たちはソーシャルメディアで繋がっている。この若者たちの動きが一時的でなくて将来に及ぶと思うので、とても良いニュースだと結んでいます。

日本でもソーシャルメディアの世界が広がっています。同時に年配の人と若い人がしゃべり合う現実の世界も大事です。先日参加した北海道大学での日本鳥学会大会の懇親会で、たまたま恐竜の若い研究者が隣にいて、野鳥が化石になったらという新発想を学びました。今の学問・社会の急速な変化はなかなか面白いようです。
モス氏の文に出てきたBirding with Bill Oddie, Next Generation Birders(NGB) , A Focus on Nature(A FoN) , 13 Years Wilde、またStephen Moss氏もインターネットで調べられます。すごい世の中ですね。(川内桂子)


              

2016年9月29日木曜日

興味深かった日本鳥学会・札幌大会

今年度の日本鳥学会大会は、916日(金)~19日(月)まで、札幌の北海道大学で開かれました。広告まで入れると300ページを超す講演要旨集には、59題の口頭発表、125題のポスター発表、19題の高校生(小中学生)ポスター発表、19題の自由集会、受賞講演、公開シンポジウム。それに新企画の「プレナリー講演」が2題と盛りだくさんのプログラムが記されていました。参加者は500名を超え、最終日の公開シンポジウムはほぼ満席でした。
当会が主催した自由集会については、824日付ですでに本ブログで報告しました。ここでは全体的なことを紹介します。まず、第一にあげられるのは、会場が点在し、参加者の多くが道に迷ったこと。これまでの日本鳥学会の会場は、コンパクトでとりあえず受付に行けば、どこで何をやっているのかわかるものでしたが、今回は受付と自由集会の会場が、地下鉄1駅分くらい離れていて戸惑いました。第二は、現代日本でもっとも関心の大きい「高齢化」があまり感じられなかったこと。かつてのように“若者の台頭”という雰囲気ではありませんでしたが、60歳代以上ばかりといった状況ではなく、20歳~40歳代の発表が多く、鳥の研究は、少なくとも今後数十年躍進していくだろうと予測できました。
私見では、ポスター発表に興味深いものが多く、発表者とのコミュニケーションも取れ、満足できるものでした。高校生発表もレベルが高く、充実していたとのことですが、時間が取れず今回はパスしました。〔発表を聞かれた方は、本ブログに感想をご投稿ください〕
最終日に行われた公開シンポジウム「恐竜学者の鳥のはなしと鳥類学者の恐竜のはなし」は出色でした。講演者による話の内容も、従来の鳥学界とはちがうアプローチで“笑い”も出るような楽しい雰囲気だったことと、何より参加者に“小学校低学年”の親子連れが目立ったこと、そしてその子どもたちが何人も堂々と質問したことです。

残念ながら、その中味は“恐竜”についてばかりでしたが、日本鳥学会大会に子どもたちが食いついてきたことは、今後の運営にひとつの示唆を与えたことで重要と思いました。(川内博)

講演要旨集

シマフクロウが脚にとらえた“鳥”は、羽毛恐竜・アンキオルニス Anchiornis

2016年9月24日土曜日

日本鳥学会2016年度札幌大会自由集会終わる

9月16日に札幌の北海道大学でおこなわれた日本鳥学会2016年度札幌大会にて、カラスのねぐらをテーマとした自由集会を開催しました。
学会初日でしかも平日金曜日の夕方という時間設定なうえ、さらに指定された会場が非常に分かりにくかったこともあり、どれだけの方に参加していただけるかと心配でしたが、30名もの方にお集まりいただき、有意義な自由集会になりました。

前半は各地でカラスのねぐら問題にかかわっていらっしゃる3名と私の4名が話題提供者としてお話ししまいた。

トップバッターは地元札幌で詳細なカラスの観察調査をされているNPO法人札幌カラス研究会の中村眞樹子さん。ビルに囲まれた緑地や斜面林、鉄道林などにカラスのねぐらが形成されること、ロードヒーティングの影響があることなどのお話しでした。北の国ならではの特徴があるなという思いがします。大勢の人が利用する大通公園にもねぐらがあり、問題になっていない点が不思議でしたが、人が通る道の上ではカラスが寝ないため、糞が人にかからないので問題にならないということでした。



つぎに元鳥学会会長の中村司さんに、山梨・甲府の街路樹にできたカラスのねぐらについてご報告いただきました。甲府のかつてのねぐらはハシボソガラスのみが北部の山間部にあったが、2009年に駅前の平和通りのケヤキ並木にハシボソガラスがねぐらをつくりはじめ、糞が落ちるなどの社会問題になった。それにさきがけ2005年にそれまでいなかったハシブトガラスの2~3羽が電柱にねぐらを作りはじめた事実があり、東京のカラス対策で追い出されたハシブトガラスが甲府に来て、ハシボソガラスを誘導したのではないかという説を提唱されました。なお、現在も冬期に600羽ほどのハシボソガラスが駅前のケヤキ並木で寝ているとのことでした。


岩手大学の東淳樹さんからは「盛岡市広域圏におけるカラスによる被害とその対策」と題してお話しいただきました。ハシブトガラスに発信器をつけて行動調査を行ったら、意外にもゴミには依存しておらず、農業残渣を食物源としていたことが明らかになり、その対策がカラス対策になると進めていた。とくに畜産関連ではカラスが入らないような工夫をして効果をあげていたということです。しかし、なぜかその成果を無視するように行政は不必要なカラス追い出しを行い、かえって事態を悪化させたことの顛末を詳しくお話しいただきました。農家や行政との良好な関係を保っていくことの難しさが、カラスのねぐら問題をより困難なものにしていることを実感しました。



最期は、私が佐賀県佐賀市内でここ数年問題になっているミヤマガラスの塒問題について、お話しさせていただきました。ミヤマガラスは、海外で繁殖し日本で越冬する渡り鳥のカラスです。1990年以前は九州に渡来するに過ぎない比較的珍しい種でしたが、それ以降はどんどん越冬地が増え、現在では日本全国で見られるようになっています。さらに佐賀市では、街のど真ん中の県庁のある公園に約1万羽がねぐらをつくり、大量の糞を落とすなど大問題になっています。カラス対策は捕獲、ゴミの遮断、巣の撤去などが行われますが、ミヤマガラスにはどれも効果がないか、実施ができないなどの特殊事情があり、打つ手がないのが現状です。佐賀以外でもミヤマガラスの市街地ねぐらができつつあり、新たなカラス問題になりつつあると報告させていただきました。



後半のディスカッションでは、カラスのねぐらではなにが問題になるかが話題になりました。一番は糞で、人が通るか通らないかの違いで問題になるかどうかが決まるということでした。
また、ハシボソガラスのねぐらはあまり鳴かないので気がつかれにくく、ハシブトガラスがはいるとよく鳴くので目立ってしまい問題化するというお話しもありました。


また、生息数の制御について、ゴミは人のコントロールが可能ですが、農作物のコントロールはなかなか難しいので、どうしたらいいのだろうという課題が浮かび上がりました。

カラスのねぐら問題は、なかなか複雑な背景があり、解決できるものではありませんが、このような自由集会を実施することで地域別の事情や問題点の整理ができ、有意義なものになったと実感しています。
柴田佳秀


2016年8月30日火曜日

「イソヒヨドリの謎」が毎日新聞8月12日夕刊に

当会が全国調査を実施している「イソヒヨドリの内陸部進出」の話題が、毎日新聞の812日付夕刊の「憂楽帳」に紹介されました。
磯に限定生息していたイソヒヨドリが、海辺から数10㎞以上離れた市街地で繁殖している例は、東京や埼玉でも見られていて、東京湾から約50㎞離れた八王子市では、1990年代前半から継続的に観察事例があり、その後も増え続けています。
八王子・日野カワセミ会(代表・粕谷和夫氏・当会会員)の20157月~20163月までの非繁殖期の調査では、26件の観察情報があり、月1件以上の観察例から、非繁殖期にもふつうに生息していて「留鳥」であると判断しているようです。
また、今年7月までの営巣調査では、前年に比べ6か所で新たに営巣が見つかり、全体で14巣が確認されています。環境としては、駅前の事務所ビル、集合住宅、大型量販店などで、中には駅から少し離れた場所でも発見されているとのことです。
 これらの詳しい報告は、同会の機関誌『かわせみ』第56号に掲載され、94日に発行される予定です。
ところで、当会の調査については、朝日新聞の729日付夕刊に「カルガモ親子のお引っ越し」、同82日付夕刊に、「東京都心のカラスが減った」という話が載りました。「都市鳥」という名前が、鳥の世界だけでなく、広く一般に認知される日も近いようです。

イソヒヨドリの雌

イソヒヨドリはビルや屋根、人工物などの上にいるのをよく見かけますが、
普通の小鳥のように枝にも止まります。

2016年8月16日火曜日

都市鳥ニュースNo21号が発行されました

今回は、とても国際的な内容です。

名城大学の橋本さんには、今年の春に開催されたイギリス鳥学会2016年度年次大会の様子を寄稿していただきました。
イギリス鳥学会は日本鳥学会とは違い、毎年、テーマを設けて研究の報告会を催しているのですが、今回は都市鳥がテーマ。都市鳥研究の最前線を知る絶好の機会です。しかし、英語という壁があってアマチュアでは参加を躊躇してしまいがちです。
今回、橋本さんに詳しい参加報告を寄せてもらったことで、世界の都市鳥研究がどんな方向で進められているのか知ることができます。

有田一郎さんには、ソコトラ島に生息するソコトラスズメの報告を寄せていただきました。ソコトラ島は非常にユニークな生態系の自然が存在する島として有名ですが、そこに棲む固有種のスズメについての報告はあまりありません。貴重な観察記録です。


目次

読み物
・イギリス鳥学会2016年度年次大会参加記(上)(橋本啓史)
・ソコトラスズメに都市鳥のシナントロピズムを思う(有田一郎)
・イソヒヨドリの調査地探訪と漂行(林 哲) 
会からお知らせ
日本鳥学会2016年度大会・自由集会のご案内
投稿のお願い
入会のご案内・編集後記 


2016年7月30日土曜日

東武東上線沿線のムクドリの「駅前ねぐら」・第3報

昨年から紹介を始めた東武東上線沿線のムクドリの「駅前のねぐら」のようす。昨冬121日付の第2報の続きから始めますと、越冬の可能性もと記した北朝霞駅周辺は、結局2月以降は姿を消し、冬越しはありませんでした。
今年も、池袋(東京都)~川越(埼玉県)間でのチェックをしています。ねぐら形成の状況は、昨夏とほぼ同じで、和光市駅を除く、埼玉県下の「急行停車駅」のようです。
723日のふじみ野駅・西口は大騒ぎでした。数日前にロータリーから大通りに続く一帯のケヤキの街路樹は丸坊主状態に剪定され、落ち着かないのか、薄暗い中をいつまでも、空を舞う群れが見られました。
いつもはスズメのお宿になっているコンビニ角からの横道の、選定されていないイチョウの並木にも強引に多数が入り込んだり、近くの電線に止まったりしていました。そのうえ、そんな状況に頭に来たおじさんが、バケツをたたいて追い立てたりで、騒ぎはいつまでも続いていました。

ふじみの駅・東口に行くとシーンとしているのに、人通りの多い西側だけにムクドリは飛来しています。これが駅の規模が大きい川越駅だと、両側のロータリーにねぐらが形成されてています。ポイントはやはり“にぎやかさ”か。(川内 博・桂子)


2016年7月22日金曜日

日本鳥学会2016年度大会で自由集会。今回のテーマはカラスのねぐら問題

 都市鳥研究会では、今年度も北海道札幌の北海道大学で9月16日~19日に行われる日本鳥学会2016年度大会で自由集会を企画しています。
札幌と言えば東京とならぶ日本有数のカラス都市です。したがって今回のテーマはとうぜんカラスにしました。

カラス類は、これまでゴミの食い荒らしや人への攻撃などのいわゆる「カラス問題」と称される様々な人との軋轢を生じさせてきました。なかには大きな社会問題となって、その対策に頭を悩まされているのが現状です。今回は、そんな「カラス問題」の1つであるねぐら問題に焦点を当て、「カラスのねぐらをどうするか-古くて新しいカラス問題-」と題して自由集会を行います。

カラスのねぐらは、普通は樹林地につくられますが、ときに市街地のど真ん中の公園などに作られることがあり、大きな社会問題になります。このような都市型のねぐらは、ここ十年くらい間に増加傾向にあり、とくに地方都市で問題が多発しています。また、ここ数年、個体数を増加させているミヤマガラスが市街地に大規模なねぐらをつくるという新しいタイプの問題も起こっています。

ねぐら問題の解決はとても難しく、今回の自由集会で結論がでないのは容易に想像できますが、鳥の専門家があつまる学会で問題点の整理や討論を行うことで新たな道筋が見いだせるのではないかと期待しています。

また、エキスカーションとして、札幌で詳しくカラスの観察研究をおこなっている中村眞樹子さんの案内で、早朝のカラスの観察会も予定しています。


甲府の街路樹にできたハシボソがラスのねぐら


2016年6月28日火曜日

自然教育園3年間の記録がまとまりました

201211月から201510月までの丸3年、月1回のセンサス調査結果がまとまり、この6月に発刊された『自然教育園報告 47号』に所収されました。
自然教育園は、東京都心の港区白金台に、いまもなお緑の深い森を形成し、皇居や明治神宮と共に、「緑島(りょくとう)」を形成しています〔写真1〕。
面積は約20haで、戦後宮内庁から文部省に移管され、1949(昭和24)年、「国立自然教育園」として一般公開されるとともに、同園に常駐する技官によって、継続的に生物の記録が残されています。
しかし、ここのところ鳥の記録が途絶えていたため、当会と日本野鳥の会東京で「野鳥調査会」をつくり、月1回のセンサス調査やシジュウカラのテリトリー調査、繁殖調査などを実施しました。〔グラフ〕
この3年間で、大きな変化は「エナガの定着と繁殖」です。都内に分布を広げつつあるエナガが、ついに都心のこの緑島でも繁殖が記録され、巣も発見されました。〔写真2〕

その報告は、下記のWebで見ることができます。ぜひアクセスしてみてください。



写真1 一般立ち入り禁止区域も踏査

写真 笹藪に営巣したエナガの巣


2016年6月10日金曜日

「都市鳥」がテーマのイギリス鳥学会大会に参加してきました

2016457日に、イギリス・レスター大学で開催された「URBAN BIRDS Pressures, Processes and Consequences」をテーマにしたイギリス鳥学会年次大会(BOU2016)に参加して、たいへん刺激を受けて来きました。

 イギリス鳥学会の年次大会(春)・研究集会(秋)は、日本鳥学会大会とは異なり、毎回テーマが決まっており、テーマに沿った発表しかありません。発表のない研究者も年次大会に参加していましたが、大会中に総会もあったものの、参加者は120名程度と日本鳥学会大会に比べると少なかったのが印象的でした(ちなみに2015年末時点の学会員数は1,194名で日本鳥学会と同規模)。しかし、1つの口頭発表会場で皆が全ての講演を聞き、三度の食事も食堂で皆一堂に会するアットホームな雰囲気でした。なお、イギリス国外からの参加者が4割程度あり、全ての大陸(南極大陸を除く)から参加者がある、国際的に注目される会議になったと主催者発表がありました。アジアからはシンガポール2名(?)と私(日本)のおそらく計3名だと思われます。

 口頭発表は28件、トーキング・ポスターが6件、ポスター発表が24件でした。プレナリー講演はアメリカから招待されたカラス研究でも有名なワシントン大学のProf. John Marzluff氏でした。私は名古屋におけるコゲラとキビタキの都市緑地への進出についてポスター発表をしてきました。詳細は近く『都市鳥ニュース』で報告したいと思っていますが、端的に言えば、都市の鳥類に関して適応行動だけでなく生理学・遺伝学の面からの研究も進んできているということと、特に都市では市民を巻き込んだ調査(アメリカではNeighborhood Nestwatch,イギリスではBTOの行うGarden BirdWatchなど)が成果を上げているということを強く感じました。

 なお,イギリス鳥学会のウェブサイトではプログラムと要旨が公開されています(http://www.bou.org.uk/conferences/urban-birds-delegate-pack.pdf)。また、今後、もう少し長い原稿も掲載されるプロシーディングスやIbis誌の特集号が公開される予定です。また,ツイッターでハッシュタグ”#BOU2016”を検索すると、学会公式アカウントによる画像付きの大会の実況中継や参加者の声を拾うことができます。更に大会発表とは異なりますが、Ibis誌では大会に合わせ「都市鳥」を特集した”Virtual Issue”がウェブ公開されています(http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1111/%28ISSN%291474-919X/homepage/urban_birds__pressures__processes_and_consequences_virtual_issue.htm?campaign=wlytk-42459.2149652778)。これは、 Ibis誌と同じワイリー社から出版されている他雑誌に掲載された近年の「都市鳥」を扱った論文をまとめて、期間限定で無料公開するというものです。関心のある方は是非覗いてみてください。(名城大学・橋本啓史)


〔写真1〕口頭発表会場の様子。
ちなみに右端がオックスフォード大学EGI名誉研究員であるProf. Chris Perrins 氏で、
大会中に Union Medal が授与された。

写真2〕発表会場となったレスター大学オードビー・キャンパスにある
スタンフォード・コート。

2016年5月26日木曜日

東京・明治神宮の森でキビタキが繁殖

明治神宮は、いまから約95年前に、明治天皇を祀る神社として造成された森です。当初からの基本方針として、落葉・落枝も林床に戻すということで、当初の計画より早く“太古の森”といった雰囲気をもつ緑地となっています。
ここでは、1970(昭和45)年半ば以降、森林性の鳥のヒヨドリ・コゲラ・オオタカ・エナガが次々と定着し繁殖するようになっています。そして20112013年にかけて、40年ぶりに実施された「第二次明治神宮境内総合調査」では、キビタキが複数生息し〔写真:亀井ユリ子さん提供〕、餌をくわえ、巣と思われる場所に飛び込み、餌なしで飛び立つのを観察しました。残念ながら、巣の確認はできませんでしたが、昨年6月中旬に苑内をまわり、5か所で雄の囀りを確認しました。今年も5月下旬に、やはり5か所で確認しました。
 最近になって繁殖を始めたのかというと、実は197172(昭和4647)年に実施された第1回の総合調査の時も、「御苑で繁殖したと思われるヒナを連れた親子」が観察されています。しかし、その後も日本野鳥の会東京による探鳥会が毎月実施されていますが、繁殖の兆候を示すような記録がありません。
 近年、平地林でのキビタキの繁殖例が増えています。ぜひ観察例をご報告ください。(川内 博)






2016年4月23日土曜日

吉野山にもイソヒヨドリが~観桜ツアーでの観察から

和歌山県の高野山にイソヒヨドリがという話を、昨秋本ブログで紹介しました(1018日付)が、今春の478日、吉野山と高野山を巡る観桜ツアー中に、両山でイソヒヨドリに出会いました。
奈良の吉野山は、ちょうど「中の千本」が満開で、折からの雨があがり、谷沿いに霧が立ち込め、幻想的な雰囲気のなか〔写真1〕、参道沿いの建物から、イソヒヨドリの囀りが2か所で響き、姿も確認できました。参道沿いは木造家屋が続いていて、全体的にも、とくに岩山の印象はありませんでした。
翌朝5時、高野山の宿坊の窓のすぐそばで鳴くイソヒヨドリの大きな声で目覚めました。同じ個体と思われる雄が、巨木のてっぺんで囀っていました〔写真2〕。昨秋その姿を確認した壇上伽藍の根本大塔に行くと、そこでも1羽の雄が塔の一番高い相輪で。また、商店街の続く通りの屋根や駐車場でもさえずりを聞き、計4か所で確認しました。奥の院も歩きましたが、さすがに苔むした墓石が並ぶ、巨木の森のなかではその声は聞こえませんでした。

今回の観察から感じたことは、内陸部進出が進んでいる西日本の山はどこもチェックが必要ということと、比較のために従来の「磯」での生活ぶりをもっと知りたいということでした。ぜひ海岸沿いでの生態調査にもご協力ください。(川内 博)

〔写真1〕満開の吉野「中の千本桜」のなかで、イソヒヨドリが囀る

〔写真2〕高野山・巨木のてっぺんで囀るイソヒヨドリの雄


2016年4月14日木曜日

都市鳥ニュースNo20号が発行されました

都市鳥ニュースNo.20号が発行されました。
今回は、秋の日本鳥学会大会・自由集会のテーマに予定しています「カラス」を特集しました。
東京の“カラス問題”は改善が見られ、最近はマスコミの話題にもなりませんが、逆に、全国各地の都市では、同質の問題が頻発しているようです。
研究会として全国展開をしています「イソヒヨドリの内陸部進出」の方は、今年から現地調査が始まった「全国鳥類繁殖分布調査」とタイアップして、始動しています。

目次

読み物:札幌のカラスについて 中村眞樹子    2-3
読み物:ミヤマガラス~あらたなカラス問題の発生~ 柴田佳秀  3-4
情報募集:カラスの枝落とし行動のひろがり 和田岳  5-7
研究テーマ:イソヒヨドリはなぜ内陸部に進出するのか 川内博 8-12
ブログ:この現象の奥に何かがあるのでは? 
ブログ:関西地方のイソヒヨドリ・数日間行脚して
ブログ:ゴミ箱のイソヒヨドリ・宮古島と東京での観察
報告:第7回東京都心におけるカラスの集団塒の個体数調査(速報)
日本鳥学会2016年度大会・自由集会のご案内
会からお知らせ 
投稿のお願い
入会のご案内・編集後記 







2016年3月21日月曜日

餌付く野鳥たち・・・ムクドリとカイツブリ

東京23区内の公園を歩いていて、以前にも増して、ヒトを見ると近づいてくる野鳥たちが目立つと感じるのですが、いかがでしょうか。以前からカモやユリカモメではよく目にした行動ですが、最近、ムクドリとカイツブリでそんな姿を目にしました。

ムクドリが「生ごみ漁り」をする姿は、2000年頃から見られていますが、315日、都立光が丘公園でパンくずを捲いている親父さんの周りに、ムクドリ10羽、スズメ20羽、ヒヨドリ1羽が集まっていました〔写真1〕。ムクドリが給餌に集まる姿は、今まであまり見たことがないように思うのですが、観察不足でしょうか。

翌日、練馬区立武蔵関公園の池でのカモに給餌風景を見ていたら、給餌している人の足元までカイツブリが近づきます。なんでと思いながら見ていると、手から何かをもらっていました。聞いてみると魚の切り身とのこと〔写真2〕。

一般の人の餌付けとともに、野鳥カメラマンが、いろいろな鳥に餌付けしていますが、この風潮はどんなことになるのか、興味をもってウオッチングしているところです。(川内 博)

(写真1)

(写真2)

2016年2月22日月曜日

東京新聞夕刊にカラス調査の記事が掲載されました

東京新聞2016年2月22日付け夕刊の一面に、当会が昨年末実施したカラス個体数調査についての記事が掲載されました。
紙面を掲載するにあたり許可をいただきました。

2016年2月17日水曜日

ごみ箱のイソヒヨドリ・宮古島と東京での観察

今年から、イソヒヨドリの全国調査を本格的に始めています。イソヒヨドリはわが国では名前の通り「磯」に執着して生息し、沖縄から北海道の海岸に分布していることが知られています。しかし、そんな鳥が、いま海辺の街だけでなく、海から数十㎞、数百㎞離れた山中でもその姿が頻繁に見られるようになっています。「Why?」ということで、現在具体的な観察情報を広く収集しています。今回はそんな事例を2つ。
ひとつは、イソヒヨドリが“島中”にいるという沖縄・宮古島を初めて訪れ、24日に、中心地の平良(ひらら)の郊外から街なかを探索してみました。情報通り、ショッピングモール、サトウキビ畑、海岸線、公園、学校、官庁通り、商店街といろいろな環境を歩くと、屋上、電線、地面と次々と姿を現します。小雨もふる午前8時~13時までの5時間で、雄13羽・雌10羽の計23羽を確認。そんな中で、久貝地区にある久松中学校のそばを通ると美しいさえずりが聞こえてきました。声だけの確認かと思いながら通り過ぎようとしたとき、ごみ置き場から雄1羽が塀の上に飛び上がってきました〔写真1〕。生ごみを食べていたようです。ゴミとイソヒヨドリといえば、121日、東京・江戸川区の葛西臨海公園を歩いたとき、ごみ箱に出入りするイソヒヨドリの雌を観察しました〔写真2〕。
イソヒヨドリの食べ物のレパートリーは広く、岩場や草地、田んぼなどでの虫類の採食のほか、給餌台や路上でパン・ビスケット類を食べたり、酔っぱらいのげろなども口にします。ごみ箱での餌探しもよく見かける鳥です。そんな食性の幅が広いのも、彼らの分布拡大のひとつと思えますが、「いまなぜ?」というと、現時点では説明ができません。

 ぜひ、具体的な観察情報を、写真・ビデオなどもまじえて、本会へご提供ください。(川内 博)

(写真1)沖縄・宮古島の学校のごみ置き場にいた雄

(写真2)東京・江戸川区の公園の
ごみ箱で出入りする雌