2022年10月5日水曜日

文献紹介 東京・世田谷区でのツバメ調査報告書

野生動物の中で、もっとも身近にいて愛されているのはツバメでしょう。目の前で一所懸命に子育てをする光景は、街でも村でも同じで、心和むシーンです。

ツバメの研究は、全国で行われていますが、この春に発行された『世田谷区内ツバメ繁殖数調査報告書 2021(2018~2021年)』は、精査な調査・精緻なまとめで、熱心に調査・研究をされている方には有効な文献となると思います。

なかでも鉄道駅のガード下のT字状の梁に造られた巣を調べ上げて、その位置と数を示されているのは驚きです(4-6-3.喜多見駅ガード下事例)。駅前商店街で数多く営巣していたツバメが、2010年ごろからその営巣場所が拡大変化し、2015年以降、ガード下へと巣が集中したとのこと。そのきっかけは駅付近の道路拡張・商店街の店舗の改築改造などと考えられるようですが、なぜガード下に集中したかは不明とのことです。  また、大きなタクシー会社の車庫での集団営巣も興味あるところです(4-3-3.集団営巣事例)。こここでは2000年に1巣1繁殖が記録され、翌年には2巣2繁殖、2011年には8巣9繁殖、2018年に25巣40繁殖、そして2021年には22巣29繁殖となっているとのこと。

当会で調査している「東京駅を中心としたツバメ繁殖調査」でも、同じような事例があります。千代田区神田という東京の中心地ですが、そこに最盛期には6巣の巣が集中したときがありました。その原因は、ツバメが好む古手のビルが改築・改造されて、彼らの営巣に適した建物がなくなったことと、親切なタクシー運転手さんがいて、さまざまなカラス対策を講じていたのがその理由のようでした。

世田谷でも、「乗務員さんたちの面倒見がよく、巣材になる泥を置いたり、カラスの被害を防ぐためすべての巣の下に棚板を設置し網で囲いを造るなどの対策」が功を奏しているとのことです。

人とともに生きるツバメは、市街地だけでなく、農村でも棲みにくくなっている現状を考えるとき、この一冊は参考文献として重要と思います。興味ある方は、報告書全体がネットにアップされていますので、ぜひアクセスしてみてください。

https://www.setagayatm.or.jp/trust/research/tsubame/index.html

世田谷区内ツバメ繁殖数調査報告書 2021(2018~2021年)2022年4月発行編集・発行:(一般財団法人)世田谷トラストまちづくり 野鳥ボランティア ツバメ繁殖調査委員会.